確実な遺贈寄付の方法「信託」 遺言不要で手軽に思いを実現

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遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事
齋藤 弘道 氏
代表的な遺贈寄付の方法に「遺言による寄付」がありますが、遺言以外にも遺贈寄付する方法があることを以前のコラムでご紹介しました(2020年12月14日のコラムはこちら)。その中でも「信託による寄付」は、日本における寄付文化の醸成に大きな役割を果たす可能性があります。今回は、信託による寄付について掘り下げていきます。
信託の仕組み
まず、信託とは何かについてご説明します。信託には「委託者」「受託者」「受益者」という関係者が登場します。信託にはさまざまなバリエーションがありますが、「委託者が一定の財産を受託者に移転し、受託者は信託の目的に従って当該財産を管理し、信託財産やそこから得られた利益を受益者に交付する。」というパターンが信託の基本型と言えるでしょう。これを寄付に当てはめてみると、「委託者=寄付者」「受託者=信託銀行等」「受益者=非営利団体」と考えることができます。

信託を設定する方法には、「信託契約による方法」「遺言による方法」「信託宣言による方法」の3つ がありますが、ここでは最も一般的な「信託契約による方法」を前提として話を進めます。
信託にはいくつかの特徴があります。①財産が委託者から受託者に移転すること ②受託者は信託目的に従い信託財産の管理処分の義務を負うこと ③信託財産が受益権に転換すること、などがあります。これらの特徴が寄付の場合に具体的にどのような影響を与えるのか、次章で見てみましょう。
信託の寄付への活用
信託を活用して寄付する場合、前述の特徴から「遺言による寄付」とは異なる性質を持つことになります。
まず、①財産の所有権が委託者(寄付者)から受託者(信託銀行等)に移転することから、寄付する財産は信託契約の時点で寄付者の手を離れることになります。これにより、委託者は財産の管理負担がなくなるとともに、委託者に何があっても信託財産は保護されます(倒産隔離機能)。次に、②受託者(信託銀行等)は善管注意義務や分別管理義務などを負いますので、信託財産が安全に管理されることになります。さらに、③信託財産は受益権という形で受益者(非営利団体)に給付されますので、財産を分割して長期にわたって寄付することや、元本から生じる収益を寄付することもできます。
例えば、遺言による寄付では、寄付者死亡時に財産を一括して非営利団体に遺贈しますが、信託による寄付では、財産を安全に10年間にわたり分割して少しずつ寄付することもできます。長く足跡を残したい寄付者にとって良い方法ですし、非営利団体にとっても計画的に寄付が受けられるので予算が組みやすいというメリットがあります。
寄付に利用可能な信託の種類とその内容
寄付に利用可能な信託には以下のものがあります 。

このうち①公益信託と③特定寄附信託の2つは、寄付のための信託制度と言っても良いと思います。それぞれの制度は以下のとおり非常にしっかりとした仕組みであり、委託者(寄付者)にとって安心感があると思いますが、その一方で利便性はいまひとつという課題があり、利用件数は伸び悩んでいるようです。
公益信託は抜本的な制度改正の検討が進められており、法務省法制審議会の審議を経て2019年2月に法務大臣宛答申が提出され、国会への法案提出待ちの状態です。受託者資格の拡大や認可基準の制限緩和等により、利用の促進が期待されています。
<公益信託の仕組み>
特定寄附信託は現状あまり利用されていませんが、遺言代用信託との組み合わせにより「生前寄付+遺贈寄付」が同時に手続きできるため、利用する場面が広がるのではないかと考えています。
<特定寄附信託の仕組み>
次回は、遺言代用信託による遺贈寄付について解説いたします。
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遺贈寄附推進機構 代表取締役、全国レガシーギフト協会 理事
齋藤 弘道 氏
みずほ信託銀行の本部にて遺言信託業務に従事し、営業部店からの特殊案件やトラブルに対応。遺贈寄付の希望者の意思が実現されない課題を解決するため、弁護士・税理士らとともに勉強会を立ち上げ(後の全国レガシーギフト協会)。2014年に野村信託銀行にて遺言信託業務を立ち上げた後、2018年に遺贈寄附推進機構株式会社を設立。日本初の「遺言代用信託による寄付」「非営利団体向け不動産査定取次サービス」等を次々と実現。
- 編集監修者
- オリックス銀行