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住宅ローン金利の見通しと今後の都心マンション市況予測 ~千代田区の転売規制の影響は?~
公開日:2025-10-30 00:00:00.0
目次
2025年9月22日
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所理事長 不動産エコノミスト
吉崎 誠二
多くの方は住宅購入の際に住宅ローンを組んで購入します。住宅ローン金利は、長く史上最低水準が続いており、10年以上にもおよぶ、不動産好景気、マンション価格上昇の大きな要因であることは間違いありません。しかし、この間に住宅ローンを組んだ方の多くは、変動型金利を選択しており、かつ長期間の借り入れを行っています。言うまでもなく、変動金利は、金融環境により上下しますので、住宅ローン金利がこの先どうなるのかは、とても気になることでしょう。また、低金利がトリガーの1つとなってマンション価格上昇が続いていることから、住宅ローン金利が上昇局面を迎えれば、マンション価格下落の可能性が高まります。
ここでは、住宅ローン金利の動向と見通し、そして都心マンション市況にどのような影響を与えるのかを考察してみたいと思います。 まずは、現状を見てみましょう。
【1】住宅ローンの動向
最初に、2025年8月末現在の各種金利について見ておきましょう。住宅ローンには変動金利と固定金利がありますが、多くの方が利用する変動金利は、政策金利→短期プライムレートの影響を受けます。また固定金利は住宅金融支援機構の「フラット35」のような全期間固定金利型もありますが、多くは固定期間設定型(5年や10年など)です。固定金利は、政策金利→長期国債(10年物)金利→長期プライムレートの影響を受けます。企業が不動産を取得する場合も、短期での融資の場合は短期プライムレート、長期の融資の場合は長期プライムレートの影響を受けます。
全ての金利のベースとなる政策金利(現在の政策金利は無担保コール翌日物金利ですが、ここでは便宜上政策金利と表記)は、2025年1月末以降0.5%のままです。長期国債金利(10年物)は、近年上昇傾向にあり8月末時点では1.6%前後で推移しています。
9月の都市銀行の住宅ローン変動金利は大きな動きはなく、基準金利(優遇前)では2.625%~2.875%となっています(優遇後の実際の金利は0.6%~1.0%程度)。固定金利は、住宅金融支援機構のフラット35では、1.8%~2%程度となっています。前述のとおり、長期国債(10年物)金利は上昇傾向にあり、9月分融資は、三菱UFJ銀行を除く4行は引き上げ、三菱UFJ銀行は引き下げとなり、上昇幅は僅かですが、10年固定型の住宅ローンの最優遇金利は1.92%~2.355%となっています。多くの銀行では4月と10月に変動金利の見直しを行いますが、10月の変動金利は各行とも据え置きとなっています。そのため、現状の見通しでは、変動金利の上昇の可能性があるのは、早くても2026年4月となります。
【2】固定金利に借り換える方が増える?
政策金利は、2024年3月にマイナス金利を解除後、0%~0.15%を推移し、そして2024年7月末に0.25%に、2025年1月には0.5%に引き上げられ、以降は0.5%のままですが、この先は上昇が予想されます。また、前述のように、長期国債(10年物)金利は再び上昇傾向にあり固定金利はわずかずつですが上昇しています。
そのため、「変動金利」で住宅ローンを借りている方の中には 、将来的な変動金利の上昇に備えて、「固定金利」に変更することを検討している方も多いでしょう。
図3は、住宅系長期固定金利の1つである住宅金融支援機構の賃貸住宅融資の金利と、長期国債(10年物)金利とを重ねたものです。点線はこれら2つの差(イールドギャップ)を示しています。
これをみれば、長期国債(10年物)金利が上昇している中で、固定金利も上昇しているものの、その上昇幅は小さく、イールドギャップは小さくなっています。2025年に入ると、2012年以降では最も小さくなっていて、イールドギャップがこれ以上下がる余地が少ないと見られることから、長期国債(10年物)金利が下がることがなければ、固定金利は上昇傾向にあると見られ、「今は、固定金利が狙い目」という状況と言えるでしょう。あるハウスメーカーの担当者に聞けば、「2025年春以降、固定金利を選択する方が以前よりも増えた」ということで、合理的な判断をしているのでしょう。今後、この傾向はさらに顕著になるかもしれません。
【3】都心マンション市況への影響
住宅ローン金利の上昇が、今よりも顕著となれば、一般的な実需の中心である住宅ローンを利用しての購入者は減る可能性があります。しかし、近年の都心マンションは物件価格の高騰に伴い、すでに給与所得だけでの購入者は減少傾向にあり、その一方で住宅ローンを利用しない(あるいは頭金を多く入れ、フルローンを利用しない)、国内外の購入者が増えています。こうした方々にとっては、住宅ローン金利の上昇は大きな影響はないと思われ、その結果都心マンション市況への影響は限定的でしょう。
【4】転売規制
国土交通省が毎月公表している不動産価格指数の区分マンションの項目を見れば、2010年の平均を100として最新(9月10日の執筆時点)の5月分は216.4ポイント(全国の指数)と、本指数の過去最高値を更新しています。これを見れば、首都圏だけでなく、主要大都市において長期的に見ればマンション価格の高騰が続いている状況です。
市況の盛り上がりに加えて、地価・建築費など(原価ともいうべきものの価格)の上昇により、新規供給が大幅に減少しているため、新築希望者の中古市場への流入が増えたことや、新築マンション購入者による築浅での転売(により差益を得る)が盛んになっていることも、マンション価格上昇の要因と思われます。
そんな中、東京都千代田区は、2025年7月に一般社団法人不動産協会に対して、「総合設計などの都市開発諸制度を活用する事業及び市街地再開発事業において販売するマンション」において、マンション購入者に対して「引き渡しから原則5年間の転売を禁じる」、また「同一建物において同一名義で複数購入することを禁止する」ように要請を出しました。
千代田区によれば、「投機目的のマンション取引が増えることにより、過度な住宅価格の上昇、ひいては賃貸住宅の賃料の高騰などにも影響をおよぼし、区内に居住したい方々が住めないことが想定されます。とりわけ、居住実態のない住戸が増えることによる管理組合の運営への支障など、住環境整備への悪影響も懸念されます。」(千代田区ホームページより)ということが背景にあるようです。
要請の禁止ルールの対象となるのは、「これから許認可などを受ける事業、かつ総合設計などの都市開発諸制度を活用する事業及び市街地再開発事業において販売するマンション」ですから、買い取り再販業者や不動産流通業者の中には、「影響はだいぶ先」あるいは、「影響はそれほどない」という強気の声も聞かれます。
しかし、千代田区は、「引き続き区内のマンション取引の動向を注視し、今後も必要に応じて対策を検討するとともに、国や都に対して、短期で転売した場合の譲渡所得税の引き上げなど、投機目的での転売を抑制する有効な施策を講じるよう求めてまいります。」(同)と、別の対応も検討しているようです。
また、東京都区部の他の区の動向が注目されていましたが、中野区でも9月8日に区長が「千代田区の政策の影響を見定めた上で、我々としても今後検討していく必要がある。」と発言したことで、他の区や全国の主要都市でも追随する可能性が高くなってきました。
例えば、転売規制が導入された物件では、新築時2億円だった部屋が、竣工引き渡し直後に2億8,000万円で販売されるようなことがなくなります。しかし、本来、価格が高騰している多くの方々が住みたいと思う「優良マンション」とは、立地環境がよく、希少性が高く、コミュニティが形成され、管理体制も充実しているような優良マンションです。確かに、建物そのものは、経年と共に古くなっていきますが、外構の重厚的な雰囲気などは、年数により醸成されていくものです。
つまり、「転売規制」が広まったしても、市場への供給タイミングの変化はあるものの、価格をけん引するようなマンションは、前述ような「優良マンション」であり、そもそも市場にに出回ることが少ないので希少性は維持され、価値が下がることはないものと考えます。
【5】住宅価格上昇に対する国の対応
政府は、戦後から一貫して「良好な住宅を広く国民に提供する」ことを掲げており、1950年に設立された前述の住宅金融支援機構の前身である住宅金融公庫は、そのために設立されたものでした。
わが国では、住宅価格(あるいは不動産価格全般)の大きな上昇はこれまでも何度かありましたが、基本的には金融上の操作による価格抑制策が中心で、もっともシンプルなものは「政策金利を上昇させ、住宅ローン金利を上昇させる」です。またバブル期やミニバブル期には不動産に対する事実上の「不動産融資総量規制」を行って融資の抑制を促しました。
住宅価格上昇への規制は他国でも見られます。例えばシンガポールでは「加算印紙税による増税」(具体的には自国民:2物件目の不動産取得に対して不動産価格の20%程度の税、外国人:1物件目から60%程度の税)を行っている例もあり、こうした案も検討されているようです。
【6】投資用不動産に対する融資スタンス
前節で、不動産に対する「不動産融資総量規制」について触れましたが、日銀が公表している「貸出先別貸出金」のデータをみれば、その状況の一端を見ることができます。
図4は、日銀が四半期ごとに公表している、金融機関が個人で貸家業を行う方向けの融資(主に建築費やリノベーション工事費用)の推移を示しています。傾向が見えやすいように、四半期ごとの数字の移動平均を算出したものが緑の実線です。
これを見れば、2017年ごろから、融資スタンスが厳しくなり、融資額は減りますが、コロナ禍以降は、増加に転じており、融資スタンスは多少緩和されているものと思われます。さらに、2024年の後半からは上昇幅が拡大(大きく上昇)しており、金融機関も融資を積極的に行っているようです。特に2025年に入っても、伸びが大きくなっていることから、金融機関の積極姿勢に変わりがないことが見て取れます。
【7】まとめと今後の都心マンション市況の見通し
最後に、これまでの解説から今後のマンション市況の見通しを考えます。
政策金利は、物価上昇が続いていることやトランプ関税交渉の一端の決着をみたことから経済状況の先行き不透明感の解消もあり、この先にかなりの確率で上昇することが見込まれます。しかし、需要の伸びが物価上昇についていっていないことから上昇幅は限定的になるものと思われます。そのため多少金利が上昇したとしても個人・企業の不動産投資意欲は続くでしょう。また、新築マンション供給は依然として少なく、かつ高単価が予想されることから、中古マンション市場の活況は続きそうです。また、新築マンションの転売規制(的な制度)が導入されつつありますが、それにより、逆に希少価値の高い中古優良マンションの価値は維持されるものと思われます。
その一方で、都心における大規模マンションや集中エリアのマンションにおいては、中古物件の供給が増えれば、供給過剰による価格下落の可能性は高まるものと思われます。「転売規制」が広まれば、売り出し物件が増えるトリガーになる可能性があり、そうなれば価格下落のリスクが顕在化することになるでしょう。すでに、一部の大規模物件では、同じマンションで多くの物件が売り出されているような状況も見られ、今後の動向を注視しておきたいものです。
PROFILE
吉崎 誠二 よしざき せいじ

一般社団法人 住宅・不動産総合研究所理事長 不動産エコノミスト
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。株式会社船井総合研究所上席コンサルタントとして活躍後、株式会社ディー・サイン取締役、旧ディー・サイン不動産研究所所長を経て、一般社団法人住宅・不動産総合研究所理事長に就任(現職)。不動産・住宅分野を専門とし、データ分析や市況予測を得意とする。セミナー、講演、TV・ラジオ出演、著書多数。代表著作に「間違いだらけの住まい選び」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」などがある。
吉崎 誠二 よしざき せいじ
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所理事長 不動産エコノミスト
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。株式会社船井総合研究所上席コンサルタントとして活躍後、株式会社ディー・サイン取締役、旧ディー・サイン不動産研究所所長を経て、一般社団法人住宅・不動産総合研究所理事長に就任(現職)。不動産・住宅分野を専門とし、データ分析や市況予測を得意とする。セミナー、講演、TV・ラジオ出演、著書多数。代表著作に「間違いだらけの住まい選び」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」などがある。


