データで読み解く! 2025年後半の金利の見通しと住宅・不動産市況予測

目次
2025年6月25日
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所理事長 不動産エコノミスト
吉崎 誠二
2025年前半の不動産市況は、引き続き概ね好調が続きました。株式市場や債券市場は、4月初旬に「トランプ関税」で大きく揺れる場面もありましたが(すでに落ち着きを取り戻しています)、住宅・不動産市況はあまり影響がありませんでした。
しかし、この先の金利の動向や高止まりしている住宅・不動産市況に不安を感じている方も多くいることと思いますので、公表データなどを用いて、2025年後半の市況を予測してみたいと思います。まずは、現状を見てみましょう。
【1】金利の動向と不動産市況の関係
長く続く不動産好景気ですが、契機となったのは2013年春からの金融緩和政策でした。これにより徐々に金利が低くなることで、リーマンショック後に割安感のあった不動産への投資が進み、投資用の不動産だけでなく、ジワジワと実需市場へも波及し、大都市圏から地方主要都市のマンション価格の上昇が顕著となりました。
「金利が低い」ことが、トリガーとなった活況な不動産市況ですので、逆に金利が上がることに不安を感じる方が多いこともうなずけますが、冷静に判断したいところです。
住宅や不動産市況にかかわる金利には、政策金利に連動する短期金利と長期国債に連動する長期金利があります。現在、実需用・投資用の住宅購入の際に多くの方が利用される変動金利は短期金利に該当し、独立行政法人住宅金融支援機構などが提供する固定金利は長期金利に該当します。金利は、「借りる」という側面では、「どれくらい利息が付くか」つまり「支払いはいくらか」に影響します。一方で、「投資」の側面では、還元利回りのベース金利となり、一般的には長期金利がこれに該当します(後半で解説します)。
こうしたことから、住宅・不動産市況は、長短金利の影響を受けることになります。専門家でなければ、長期金利(≒長期国債金利)の動向を気にされないと思いますが、不動産市況には長期国債金利も重要なファクターとなることを知っておくとよいと思います。
【2】どれくらいマンション価格は上昇しているのか
ここからは、少し視点を変えて、マンション価格の動向を見てみましょう。
上のグラフは、国土交通省が公表している不動産価格指数のうち、全国区分所有マンションを示しており、2010年の1年間の平均を100として指数化したものです(グラフは2013年から2025年2月分まで)。これを見れば、概ね右肩上がりで価格が上昇しており、とくに2021年以降はそれまで以上に上昇していることがわかります。
市況を見るためには、新築マンションより中古マンションの動向を見ることが、定石です。販売物件に偏りが出る新築マンションですが、中古マンションは理論上自由市場ですので、需給のバランスで価格が決まり、正確な市況を見ることができるからです。
そこで、図2のデータですが、首都圏の中古区分マンションの価格推移を見てみれば、同様に右肩上がりが続いており、とくに2021年以降の上昇が顕著なことがわかります。2021年以降に上昇幅が拡大した主な理由としては、以下の3点が挙げられます。
① 実質金利の低下(このあと解説します)
② 円安による海外需要の増加
③ 新築供給減に伴う再販物件の増加
②や③については要因として挙げる専門家も多いようですが、これまで述べたように「金利が市況に大きな影響を与える」という論に立てば、主要因としては①ではないかと思われます。
【3】政策金利の動向と見通し
我が国における金利のベースとなる政策金利は、2024年3月にマイナス金利を解除後、0~0.15%を推移し、そして2024年7月末に0.25%に、2025年1月には0.5%に引き上げられました。直近(執筆時:6月半ば)の金融政策決定会合は6月16~17日に開催されましたが、そこでは政策金利は0.5%のまま据え置かれました。
政策金利は、日銀が物価の動向を見定めて、物価を安定させるために、政策的に操作する金利です。政策金利は2025年1月末に0.5%となって以降、横ばいとなっていますが、2025年に入っても、物価上昇は3%台前半が続いていたため、4月ごろまでは年内にも0.25%~0.5%程度(=1~2回)の利上げが行われるという見方が大半でした。しかし、特に米国や中東情勢が揺れている状況が世界経済に大きな影響を与えかねない状況のため、「不確実性が高い状況が続いており」(日銀総裁のコメント)、上がっても1回(=0.25%)ではないかと予測する専門家が増えています。
実際に、物価が上がる要因である需給のバランスを見ても、需要が伸びている状況になく、現在の物価上昇は原材料費などのコスト上昇が要因であるため、日銀としても、需要の抑制につながる金利の上昇は、「慎重に」かつ「少しずつ」しか行えないものと思われます。
【4】マイナス圏が続く実質金利の動向とマンション価格の上昇
このところの、日銀の金融政策に関するレポートや審議委員の発言では「実質金利は極めて低い・・」や「利上げ後も実質金利はマイナス圏内にあり・・」という言葉が目立ちます。
実質金利とは、名目金利(実際の金利)から物価上昇率を引いたものです。消費者物価指数(コア指数)を見れば、2024年12月以降は前年同期比で3%台で推移しており、日銀の展望レポートでは2025年度の予想インフレ率は2%台前半となっています。
例えば、2021年のインフレ率は0%~0.5%程度でしたが、この時の借入金利が例えば1%ならば、実質金利は1%~0.5%ということになります。昨今の借入金利が1.5%だったとして、インフレ率2.5%を引けば、マイナス1%となります。金利は多少上がっていますが、「実質金利」は以前よりも低い状況にあり、マイナス圏内になり、かなり金融緩和状況にあると言えます。
消費者物価指数は2022年春ごろから上昇し、2022年後半~2023年は前年同月比で3%を超える上昇となりました。先に述べた中古マンション価格の上昇幅が拡大した時期と重なります。2024年度は2.7%、2025年度は前述の通り、2026年度も1%台後半になる見通し(日銀展望レポート)ですので、この先仮に多少金利が上昇しても、まだまだ金融緩和が続くということになります。
【5】マンション価格の見通し
中古マンション成約価格の首都圏データを見れば、季節要因もあると思いますが、2025年の春ごろから上昇幅が多少大きくなっている傾向も見受けられます。流通量も好調に推移しており、売り出し中の物件数が減ってきているようです。
新築マンションについても、マンション適地不足により用地仕入れが難航(価格が上昇)していることや建築工事費の上昇により、今後も高値が続くことは間違いありません。少なくとも、すでに仕込み(=計画)が進んでいる向こう3年間は高額物件が中心となるでしょう。また、高値についてこれる需要を求めると、新規供給物件は一等地物件、駅近物件、再開発物件など、好立地物件が中心となりそうです。
そうだとすれば、資産価値の下がりにくい物件ということになりますが、「実需」だけでなく、「賃貸用=投資用」での購入割合が増えるでしょう(すでにその傾向です)。
中古マンションは、販売中物件(=在庫)が減る傾向にありますが、今後の見通しを予測するためには、「成約まで日数の動向」、「売り出し価格改定の割合」、「指値幅」の変化などを見るといいでしょう。とくに流通戸数の多い首都圏では、この3つの数字を見れば、動向をつかむことができます。
執筆時の6月半ばでは、2~4月などの流通が増える時期を過ぎたばかりで、実態がややつかみにくい状況にありますが、成約日数は横ばい、価格改定はやや増、指値幅もやや増、という状況が想定されます。ただ、首都圏においては新規売り出し件数もそれほど増える傾向になく、引き続き高値が続きそうです。
【6】投資用住宅の好調は続く
次に、投資用の住宅(区分・一棟もの)の動向です。
投資用物件の市況を見るために多くの投資家が参考にしているデータはキャップレートの動向でしょう。キャップレートは投資家が「期待する利回り」のことです。収益還元法による収益不動産の(簡易)価格算定は、NOI÷還元利回りで計算されますが、この時の還元利回りの指標となるのがキャップレートです。
キャップレートはいくつかのシンクタンクが投資家へのアンケート調査を行っていますが、その1つに一般財団法人日本不動産研究所が行っている「不動産投資家調査」があります。最新の5月28日に公表した「第52回不動産投資家調査」(調査期間:2025年4月)によれば、賃貸用住宅のキャップレートは、全国主要都市で引き続き史上最低水準値が続いています。その中でも、東京(城南地区)のキャップレートは、全国で最も値が低く、ワンルームタイプのキャップレートは3.7%となりました。前回調査(2024年10月調査、11月公表)を含め前3回は3.8%でしたが、4期(2年)ぶりに最低値が更新されました。
主要10都市のワンルームタイプの期待利回りを見れば、東京都区部(城南地区:渋谷や恵比寿から電車で15分程度の想定)が最も低く3.7%、東京(城東地区)は、3.9%、次に低いのは横浜市と大阪市が4.3%(ともに前回と同値)、名古屋市と福岡市が4.5%(ともに前回と同値)、京都市4.6%(前回と同値)、神戸市4.7%(前回と同値)、そして札幌市・仙台市・広島市が5.0%(すべて前回と同値)となっています。主要都市ではどこでも利回りが5%以下となっています。同様に、ファミリータイプの物件でも、ワンルームタイプと同様に全国主要都市で史上最低値が続いています。
しかし、実際の取引における物件の利回りは、「期待する利回り(=キャップレート)」よりも、低くなっているようです。この調査によれば、東京城南地区でのワンルームタイプの取引利回りは3.4%が平均値となっています(こちらは前回調査と同値)。
また、東京城東地区では期待利回りは3.9%(4回連続同じ値)、実際の取引利回りは3.6%(同)となっており、こちらも史上最低値が続いています。
先に述べたように、「投資家の投資意欲はまだまだ旺盛」であることから、キャップレート、取引利回りとも、相当低い状況が続いているものの、もう少し下がる可能性が高いと思われます。
【7】長期金利の動向とキャップレートの関係
長期国債金利は、下図のように、2022年以降はマイナス圏内から脱し、それ以降は上昇傾向にありました。日銀は金融緩和政策の一環で国が発行する長期国債の多くの割合を買い入れることで、長期金利を抑えてきました。また、国債は国の借金で、支払いは歳出(=税金)ですから、金利を抑えることは国債の利息を抑えることにもなります。
日銀は2024年7月末の金融政策決定会合で徐々に買い入れ額を減らす(月約6兆円から段階的に月約3兆円へ)ことを決めました。グラフを見てもわかるように、それに伴い長期国債金利も上昇を続けていました。これにより、長期プライムレート、固定金利も上昇していました。しかし、想定以上に金利が上がったためか、2025年6月の金融政策決定会合では減額の幅を抑えることが決まりました。これにより、長期国債金利は、一時1.6%を超えましたが、6月25日時点では1.4%程度となっています。
長期国債金利は、不動産投資に利回りのベースとなるリスクフリーレートとして見られています。キャップレートを理論上分解すれば、リスクフリーレート+不動産投資リスクプレミアムとなりますので、長期国債金利の上昇はキャップレートを押し上げる効果があります。しかし、先に見たように、キャップレートは低下(もしくは横ばい)という状況にあります。つまり、投資家の見立てでは、「不動産投資リスクが低下している」と判断していることになります。
このように長期国債金利が上昇することは、不動産投資に水を差す可能性がありますが、その可能性も今のところ回避されたことで、不動産への投資意欲がさらに旺盛となるものと思われます。つまり、投資用不動産の価格はもう少し上昇の可能性が高いものと予想します。
PROFILE
吉崎 誠二 よしざき せいじ
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所理事長 不動産エコノミスト
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。株式会社船井総合研究所上席コンサルタントとして活躍後、株式会社ディー・サイン取締役、旧ディー・サイン不動産研究所所長を経て、一般社団法人住宅・不動産総合研究所理事長に就任(現職)。不動産・住宅分野を専門とし、データ分析や市況予測を得意とする。セミナー、講演、TV・ラジオ出演、著書多数。代表著作に「間違いだらけの住まい選び」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」などがある。