現代における住宅仲介のプロフェッショナルとは

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不動産仲介従事者の提供するサービスは、人口減少、不動産テックの発達などの社会、経済の変化に伴い、大きな質の変化を求められてきています。プロフェッショナルとは、現代では、エキスパート、スペシャリストなどと同様に、広い意味で使われることも多いのですが、本稿では、特に現代において住宅仲介のプロフェッショナルと呼べる人のサービスとはどのようなものかについて考えてみます。
まず、プロフェッショナルを語る以前の問題として、コンプライアンス(法令順守)、専門家としての義務厳守することが挙げられます。反社取引の禁止、情報漏洩、インサイダー取引などの法令順守はもちろんのこと、宅地建物取引士としての専門家責任を遵守することです。その大半は具体的に宅地建物取引業法に定められていますが、顧客に対する説明・助言義務、注意義務、誠実義務があります。
また、仲介のプロフェッショナルとしての「できて当たり前」の基本サービスとして、都市計画法、建築基準法、宅地建物取引業法、借地借家法などの法律に精通し、取引実務では堅実、確実に取引を進め、トラブルにも対処できること、また、知識面では、不動産に関する知識のみならず、関連税制などの法改正の動きや、金利、為替などの社会、経済の動きに常に関心を持っていることが挙げられます。 現代の住宅仲介のプロフェッショナルには、さらに以下のことが求められています。
1.不動産テックに精通し、使いこなすこと
従来は顧客が仲介店舗に足を運び、物件を紹介され、案内してもらい、実店舗で契約決済をしていましたが、最近では情報サイトや無料の査定サイトが充実し、VRでも室内を内見できるようになったため、顧客は、自ら売買の判断をしてから最後に不動産業者に相談することさえあります。マーケティングの方法も大きく変化し、重要事項説明もWEB上でできるようになったため、住宅仲介のプロフェッショナルには、不動産テックに精通し、これを使いこなすことが求められています。
2.ESG、SDGs対応力
昨今、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)が、全ての企業、公共団体や個人にまで求められています。住宅仲介関連でも、低炭素住宅や省エネ住宅には補助金や減税の制度があるので、少なくともこれらの制度に精通し、顧客のESG、SDGsのニーズに対応できることが必要です。
3.グローバル化(外国人)対応力
最近の円安により、外国人にとって日本の不動産は2,3割引きといってもよく、日本のマンション等への投資が増えています。また、日本の人口減少、労働者不足に伴い、外国人労働者が増加することは必須となってきており、外国人向けの賃貸、購買仲介サービスにも対応できる必要があります。
4.他の専門家との連携力
複雑な顧客ニーズに対応するためには、不動産に関する専門性のみならず、司法書士、土地家屋調査士、税理士、弁護士等、信頼のおける他の専門家と協働できるネットワークをもっていることがより重要になってきました。そのようなネットワークを持つためには、自らの専門性を深めることにより、他の専門家のパートナーにとっても自分自身が信頼される存在でなければなりません。
5.顧客との価値共創力
これが一番重要なことですが、顧客との「価値共創力」が挙げられます。単に売買ニーズを「聞き出す」ことだけではなく、そのニーズの背景にある、住み替え、相続、あるいは投資家としてのとれるリスク等の事情を深く理解して、顧客と価値を共に創造していくという姿勢が求められます。仲介プロセスにおける価値共創とは、顧客への情報提供、提案、交渉の中で、仲介者、顧客それぞれが、お互いに持っている知識、経験のレベルを理解し(よく知り合うことの価値、知識価値)、またお互いにこの人と仕事したい、頼みたいと感じること(感情価値)により、実際の交渉や提案がスムーズに行なわれ、成約(実務上の機能価値)に結びつけることです。この3つの価値が揃ってはじめて、顧客は最高の満足が得られるものと考えます。
最後に、住宅仲介のプロフェッショナルといえる人は、組織人であるかどうかにかかわらず、自分自身で自らのキャリアを決め、楽しみながらその仕事を進め、年齢にかかわらず常に自分が成長していくことに喜びを感じている人だと思います。住宅仲介では、扱う物件、顧客は毎回異なるため、案件の中で得た経験、教訓を次に生かしていくことができます。以上のような特徴を持つ、住宅仲介のプロフェッショナルに出会えれば、ご自身の不動産の売買活動においても希望する条件に近づくのではと思います。
以上のような特徴を持つ、住宅仲介のプロフェッショナルに出会えれば、ご自身の不動産の売買活動においても希望する条件に近づくのではと思います。
Writer
村木 信爾 氏
不動産鑑定士、不動産カウンセラー、FRICS、京都大学法学部卒、ワシントン大学MBA。信託銀行にて、不動産鑑定、仲介等の業務に携わった後、現在、大和不動産鑑定㈱シニアアドバイザー、明治大学ビジネススクール兼任講師(元特任教授)、PROSIL代表。近著に『不動産プロフェッショナル・サービスの理論と実践』(清文社)2022.6刊、がある。