シニアは都心マンションに回帰する

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博報堂の「新しい大人文化研究所」が発表した「新大人研レポート いま高齢社会は『新しい大人社会』へと大きく変化」によると、40~60代男女の「新しい大人世代」の94.4%が「自分なりのライフスタイルを創造したい」と考えており、このライフスタイル創造のためには「住環境が重要だ」と考えている人たちが65.6%に上っていることが分かりました。また、このために「都心へ住み替えたい」と考えている人たちが54.3%にも達していることも分かりました。
シニアの新しいライフスタイル
この調査結果について、同研究所は「生活の多様化に伴い、シニア世代の意識に従来の『静かな余生』という概念ではなく、『ライフスタイルを創造したい』という新しい概念が生まれていることが見えてきた。この変化は、団塊の世代がリタイアしたことで起こっていると思われる。シニア世代はいかに生活を便利で快適なものにするか、社会貢献を含め意志と目的を明確に持ち、自分なりの『ライフスタイルを創る新しい大人』へと変化している」と分析しています。
「人生50年」と言う言葉がまだ現実感を持っていた1960年の日本人男性の平均寿命は65.3歳でした。すると、当時は55歳で定年退職すると残った人生は10年ほどしかありませんでした。短い期間なので「老後」「余生」などの言葉も現実感がありました。
ところが、平均寿命が男性80.2歳、女性86.6歳に達した今(2013年時点)、60歳で定年退職しても残った人生は20年以上あります。もう「老後」でも「余生」でもありません。「第二の人生」そのものといえます。
人生をリセットする以上、誰しも「生きがいを持って、元気で楽しく生活したい」と考えるのは当然といえます。同研究所の「『ライフスタイルを創造したい』という新しい概念が生まれている」との分析は当然のことと思われます。団塊の世代が「アクティブシニア」と呼ばれることとも合致します。
では、そのアクティブシニアは「生きがいを持って、元気で楽しく」を生活するためにどんな住環境を求めているのでしょうか。
例えば、首都圏郊外の戸建て住宅に住んでいたアクティブシニアのA氏(60代後半)は「家のリフォームも考えたが、子供たちが独立し夫婦二人になった家は広すぎる。交通も不便だった。それで60歳の定年退職を機に現在の東京・恵比寿の都心マンションへ住み替えた。マンションの周辺にスーパー、専門店、飲食店、娯楽施設、病院などがあるので生活が便利になった。自宅の一室をオフィスに、退職前の仕事をフリーランスで続けているが、交通の便がよいのでビジネスも順調」と語っています。
シニアが都心マンションに回帰する理由
今のシニアが社会人になった1970年頃は、「男は家を買って一人前」といわれた時代でした。戸建て住宅を購入するために働くのが生きがいの1つにもなっていました。
そんな意識を背景に今のシニアが社会の中堅になり始めた1980年代以降「マイホームブーム」が起こり、都心部より比較的地価が安い郊外に戸建て住宅を求める「ドーナツ化現象」(都心部の人口空洞化)が起こりました。そして、今では、そのシニアが現在、都心部への回帰傾向を強めています。
その一番の理由は、いうまでもなく先に述べたシニアのライフスタイルの変化です。
二番目の理由は住環境です。つまりシニアが求めるライフスタイルと郊外戸建て住宅の取り合わせがずれてきてしまったのです。
子供たちが独立した後の戸建て住宅は、誰も使わない部屋があるなど間取りにムダがあり、夫婦二人で暮らすには広すぎる観があります。家が広いと毎日の掃除も大変です。庭の手入れ、傷んだ箇所の修繕など戸建て住宅は何かと手間もかかります。また、郊外では商業施設や医療機関が遠い立地もあり、車での移動が欠かせない場合もあります。都心マンションならこうした住環境の不便さがなくなります。
都心には商業施設、医療機関、金融機関などが集中しているので、生活が便利です。移動もほとんど電車やバスで行えます。第二の人生を仕事、趣味、ボランティア活動など、どのような形で楽しむにせよ、その環境が整っています。
近年では「特に神奈川県相模原市、東京都八王子市、埼玉県さいたま市、千葉県千葉市など国道16号線沿線エリアの戸建て住宅から都心の分譲マンションへ移り住むシニア世帯が明らかに増加している」(不動産業界関係者)ともいわれています。そのため、シニアの都心マンション回帰は、今後本格化してゆくものとみられています。