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進化する高齢者向けマンション

公開日:2015-08-28 00:00:00.0

目次

一昔前までの高齢者向けマンションといえば「養老院」のイメージが漂う老人ホームが主流でした。しかし、現在では「サ高住」(サービス付き高齢者向け住宅)に代表されるような介護の不安を解消し、快適に暮らせる高齢者向けマンションの整備が進んでいます。しかし、高齢者のニーズとのギャップがあるとみられており、その解消を目指した高齢者向けの「多世代コミュニティー型マンション」を整備する流れが強まっています。高齢者向けマンションも進化し続けているようです。



「サ高住」から「多世代コミュニティー型マンション」へ


現在の高齢者住宅は住宅型、介護型、住居型有料老人ホームや特別養護老人ホーム、ケアハウス、グループホームなど、身体状況によって区分された高齢者中心の住宅が大半です。国が高齢者の新たな受け皿として創設、2011年10月から制度を開始した「サ高住」も「実態は従来の有料老人ホームと変わらない」(社会福祉事業関係者)との声が多く聞かれます。


この声には国も苦慮しているようです。例えば、国土交通省では今年4月15日に発表した「サービス付き高齢者向け住宅の整備等のあり方に関する検討会 中間とりまとめ」にある「サ高住等の現状と課題」の中で以下のように述べています。


「サ高住の供給は伸びている(全国約5600棟・18万1000戸、2015年6月末現在:編集部注)ものの、地域によりばらつきがあり、今後高齢者の増加が見込まれる首都圏の一部地域等では全国平均より整備率が低い。相対的に高齢者人口に比して供給が多い地域のサ高住ほど、地価が安い地域や市街化区域外への立地、公共交通機関や医療機関へのアクセスが悪い地域への立地が見られる」


国交省ではこのように高齢者向け住宅において立地など課題が多い実態を認め、今後は「(市街化区域内の)既存ストックを活用したサ高住の整備等推進」や「アクティブシニア等向けのサ高住に係るモデル的取組の支援」が必要としています。


高齢者だけを囲い込み、時には過剰ともいえる介護サービスを提供する現在の高齢者住宅のシステムは、労働人口が減少し介護サービス従事者も減少する時代に向かっている今では継続が困難といわれています。


そんな中で、できるだけ長く自立し、多世代の人と関わり合って生き生きと暮らせる高齢者を住環境の整備から支えようとする潮流が生まれています。その1つが2011年、都市再生機構の多摩平団地(東京・日野市)に生まれた「多世代コミュニティー型マンション」の「たまむすびテラス」です。



民間連携開発で居住者満足度の高い多世代共生型高齢者マンション


たまむすびテラス(以下、テラス)は、高度経済成長時代に開発された大量の団地再生で、「建て替えによらない団地再生モデル」として都市再生機構が企画し、民間連携による既存住棟のリノベーションにより開発された多世代コミュニティー型マンションです。


多摩平団地の再生事業に伴い空家となった5住棟を民間事業者3社へ15~20年の長期契約で一括賃貸し、コンペで落札した3社が異なるターゲットを設定。それに合わせた企画・設計により住棟のリノベーションを行い入居者に転貸しています。


テラスは若者向けシェアハウス型2棟56戸、貸し菜園付きファミリー型1棟24戸、サ高住型2棟64戸の3タイプのマンションで構成されています。そのため、高齢者が若者、子育て世代の夫婦、子供など異なる世代と共に暮らし、趣味も仕事も楽しむなどの自分のライフスタイルを貫きながら、終生安心して暮らせる環境になっています。マンションでありながら下町のような雰囲気を醸し出しているのが特徴です。


テラスが成功した背景には、民間事業者ならではの知恵と努力があります。例として多世代コミュニティー形成の中核となっている貸し菜園付きファミリー型マンションのケースをあげてみましょう。このマンションを開発したのはたなべ物産。東京・八王子市の地元密着型の不動産会社です。


同社はまず42平米3Kの「田の字型」の間取りをファミリー世代のニーズが強い1LDKに変更。キッチン、バス、トイレを最新設備に替え、床は無垢材のフローリングにしました。


またコンペ終了からリノベーション完了までの約2年間、都市再生機構と事業者3社が毎月定例会議を開き、多世代コミュニティーをいかにして形成するかを議論する中でコミュニティー運営方針を固めていったといいます。その結果、「そこに住むことが魅力であり、ステータスになる多世代コミュニティー形成」が基本方針としてまとまりました。


同社はこの方針を具体化するため、当初はマンション敷地内にフットサルコート、テニスコートなどの設置を検討しましたが、社内で議論を重ねた末、家族全員で楽しめるのは「家庭菜園」という結論に達し「家庭菜園を楽しめる賃貸マンション」を開発コンセプトに据えました。


かくして「貸し菜園付きファミリー型マンション」が生まれたわけです。また菜園の周辺には東屋、バーベキューコンロ、花見用のデッキなども設けて、テラス他住棟の入居者と交流し、多世代コミュニティーが自然と形成される環境作りに努めました。


さらに「大家である当社が多世代コミュニティー形成に積極的に関わってゆくことが、入居者の満足度向上に繋がる」との考えからバーベキュー大会、コンサートなどのイベントを企画・開催しました。


これには同社社員が参加費を自費で負担し積極的に参加してイベントを盛り上げたといいます。イベントはテラス5住棟の入居者はもとより、近隣の団地入居者にも参加を呼びかけています。こうして多摩平団地全体の活性化にも努め、「開かれた多世代コミュニティー」の創出を図っています。


テラスの取り組みを見た不動産系シンクタンク関係者は「これからの高齢者住宅は、事業者が建物の管理と介護サービスを提供しているだけでは入居者の満足を得られない。開かれたコミュニティー形成の仕組みを作って防災・減災・防犯に役立てる。高齢者のライフスタイル充実を支援する仕組みを作る。それらが高齢者住宅の付加価値になる。テラスはそのモデルケースになる」と評価しています。不動産会社ならではの視点から、高齢者住宅に新しい潮流が生まれています。



日本版CCRCを先取りしたアクティブシニア向けマンションも登場


2014年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に「日本版CCRCの普及」が盛り込まれました。CCRCとはContinuing Care Retirement Communityの略で、直訳すれば「継続的な医療・介護サービス付き高齢者コミュニティー」になります。


米国が発祥といわれるCCRCは現在全米に約2000か所あり、約70万人の高齢者が暮らし、約3兆円の市場を創出しています。「なるべく介護させない」ために予防医療、健康支援、社会参加支援などのサービスが充実しているのが特徴です。


このため、コミュニティーには医療・介護以外の健康ビッグデータ分析、ソーシャルワーカー、各種プログラム開発、ホスピタリティ、栄養管理など高齢者支援関係のサービスが集積し、開設地域に雇用と税収の増加をもたらす経済波及効果が生まれています。


米国ではCCRCが産業として成長し続けているといいます。これが政府の日本版CCRCの普及を目指す理由です。そして「日本版CCRCの先駆け」と呼ばれているのが2010年、スマートコミュニティ社が千葉市に開発した「スマートコミュニティ稲毛」(以下、コミュニティ稲毛)です。


新築分譲マンションと会員制クラブハウスを融合させたコミュニティ稲毛は、50歳以上の健常者でクラブ活動参加が入居条件という一風変わったコンセプトのアクティブシニア向けマンションです。分譲マンションは現在5棟771戸。最終的には1200戸程度まで増やす計画といいます。


マンションに隣接した会員制クラブハウスは4階建て・延べ床面積約3万4000平米の巨大です。また敷地面積約7万4000平米のグラウンドを併設しています。


クラブハウス内にはレストラン、カフェ&バーラウンジ、フィットネスルーム、音楽スタジオ、カラオケルーム、アトリエ、ダンスホールなどの施設があり、グラウンドには野球場、サッカー場、ゴルフ練習場などがあります。


これらクラブハウスでは毎日のように太極拳、和太鼓、ダンス、合唱、陶芸、絵画などのクラブ活動をマンション入居者が行っており、そのメニューは数十に上るといいます。つまり、クラブ活動を通じてコミュニティーが自然に形成される仕組みになっているのです。


また日常の安否確認、看護師の常駐、協力医療機関との連携など、医療・介護サービス体制も整っています。マンション入居者の平均年齢は72歳で、男女比は約4対6。単身・夫婦の世帯比率は単身世帯が約70%を占めているといいます。


スマートコミュニティ社の染野正道社長は、今年2月に行った記者会見で「米国で普及しているCCRCをわが国の高齢者住宅事業に生かそうと考えたのが、コミュニティ稲毛開発のきっかけ。マンションを購入した後は月額10~12万円の『年金支給額の範囲内で終生まで安心・安全な暮らしを楽しめる』というのがコンセプト。戸数が目標の1200戸程度になり、入居者が1人あたり年間約200万円消費すると計算すると、コミュニティ稲毛だけで年間約24億円を消費することになり、その経済波及効果が地元に生まれると考えている。また規模の経済性で入居者の生活コストも大幅に圧縮できる」と、その事業目的を説明しています。


高齢者が自立的に生き生きと第二の人生を楽しめるコミュニティー形成を目指す日本版CCRC。こちらもどうやら民間主導で普及しそうな気配です。

編集監修者情報
編集監修者
株式会社大京穴吹不動産
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東京都渋谷区千駄ヶ谷4-19-18 オリックス千駄ヶ谷ビル
設立年月
1988年12月
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