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令和6年度経済財政白書から読み解く既存住宅市場における拡大と課題

公開日:2025/1/17

目次

2024年8月、内閣府より「令和6年度 経済財政白書」が公表されました。 その中で日本経済は、コロナ禍の影響から脱した後、企業収益が過去最高を更新し、企業部門は堅調さを維持している一方で 家計部門は名目賃金の伸びが物価上昇に未だ追いついていないことから、個人消費は力強さを欠いた状態が続き、景気の回復力は弱い状態が続いているとあります。 このような経済状況の中、住宅ストックに関する課題にも触れています。 具体的には世帯数を超えて蓄積されてきた住宅ストックについて、今後は人口減少や単身世帯の増加の中で持家の新築需要が見込みがたいこと、 その一方で、中古住宅を志向する動きが広がりつつあることを示し、不動産取引市場の透明化を含め、この流れを後押しするための課題が何かという点です。今回はこのテーマを深堀していきます。



【1】日本における住宅需要の構造の変化
 -新設住宅着工戸数の減少、既存住宅市場の増加


日本における住宅戸数(ストック)は、1960 年代後半に世帯数を上回り、両者のかい離が拡大していく中、新設住宅着工戸数は、1970年代前半の190万戸をピークに減少を続けています。直近の公表数値をみると2023年は約82万戸となっており、ピーク時の4割強まで減少しています。また近年における不動産価格の上昇の下、戸建て、マンションともに既存住宅の販売量が増加する傾向が続いています。(図1)



新設住宅着工が減少している影響で、既存住宅の取引の増加が進んでいると考えられますが、このような現象が起こる背景には、いったいどのような要因が考えられるのでしょうか?



【2】既存住宅の取引が増加している背景とは?


既存住宅の取引が増加している背景として、以下3点の要因が考えられます。


①各年齢層の持家率低下による、余剰となる持家住宅ストックの増大

持家住宅への志向が強いと考えられる夫婦とお子さま世帯や三世代世帯は長期的に減少しており(図2)、世帯構成の変化が持家住宅の需要に影響していると考えられます。
総務省「住宅・土地統計調査」より、総世帯における世帯主の年齢別持家率を1993年と2018年で比較すると30代の持家率は7.1%ポイント、40代の持家率は、9.5%ポイント低下しています。(図3)
持家住宅ストックが世帯数を上回る中、今後のさらなる人口減少と世帯構成の変化は、余剰となる持家住宅ストックを増大させる可能性があります。


②価格上昇による取得住宅の郊外化、既存住宅化

近年の建築費の高騰などによる新築住宅価格上昇の中で、より低価格の住宅を求めて、取得住宅の郊外化や既存住宅化が進んでいます。国際的にみればまだまだ我が国の既存住宅の流通量は少ないのですが、大きなトレンドとしては伸びてきています。

③住宅の長寿命化が進んでいる

近年住宅の品質向上に伴って、住宅における価値の減少スピードが弱まり、耐用年数が延びてきているといえます。耐用年数が延びれば、住宅の長寿命化が進むことになり、既存住宅と新築住宅における価値の差も少なくなると推測されます。そのため、既存住宅の価値も一定の高い水準となり、ユーザーの選択肢として既存住宅も候補に入る可能性が高くなると推測され、既存住宅における取引増加に繋がってくると考えられます。



【3】既存住宅流通市場拡大における課題


ここまで既存住宅市場の拡大の状況、要因についてみてきました。今後も拡大が見込まれる中、既存住宅流通市場における課題はいったいどんなことが考えられるのでしょうか?

①既存住宅における価値が早期にゼロと評価される慣行の存在

既存住宅の性能などが明らかでないことにより、木造戸建てを中心に既存住宅における価値が早期にゼロと評価される慣行の存在が指摘されています。この課題に対する対策として、建物状況調査(インスペクション)制度の実施、普及があります。2024年4月より、共同住宅に係る重要事項説明の対象となる建物状況調査結果の期間が、調査の実施から2年を経過していないものとするほか、標準媒介契約約款が改正され、インスペクションを実施する者の斡旋を「無」とする場合における理由の記載欄を設けるなど、制度の利用促進に向けた取組が進められています。

②リフォーム実施拡大とその実施におけるユーザーの不安や不確実性の存在

住宅の長寿命化が進んでいる背景の一つにはリフォームの規模拡大が考えられます。
増築、改築( 統計上、新設着工に含まれる)と住宅設備の維持修繕などを合わせたリフォームの市場規模(図4)については、2000年代後半以降、おおむね増加傾向で推移し、2 0 2 2 年時点で過去最高の水準まで高まっています。

今後もリフォーム市場は、流通市場の活性化につながる余地は十分にあると考えられますが、一方でリフォーム実施の課題もみえてきています。
例えば、国土交通省「住宅市場動向調査」から、リフォームを実施したユーザーに対して「リフォーム時に困った経験」に対する回答(複数回答)を確認すると、「特にない」が67%程度と、大きな制約はないとみられますが、「見積もりが適切かどうかわからなかった」や「費用が当初の見積もりよりオーバーした」との回答が1割前後ずつあるなど、費用面での不安や不確実性も散見されます。(図5)

こうしたリフォーム促進の制約となっている要因を踏まえながら、住宅リフォーム事業者団体登録制度の認知拡大など、リフォームに向けた心理的ハードルを低くしていくことが重要と考えられます。

③不動産仲介の円滑化、適正化、コンプライアンスの徹底といった透明性の確保

不動産仲介の円滑化、適正化のためには、既存住宅価格査定マニュアルの整備や全国版空き家・空き地バンクの構築などが進められています。また、空き家などの既存住宅の有効活用の観点から、2024年7月1日より、物件価格が800万円以下の価格が控えめな空き家などについて、原則による上限を超えて宅地建物取引業者が報酬を受領できるようになるなど、空き家などの流通促進に向けた取り組みが進められています。
不動産業界のコンプライアンスに関する問題は減少傾向であるものの、引き続き相応の件数が毎年発生しています。両手仲介の問題の一つとして挙げられている、いわゆる「囲い込み」は、売主に不利益をもたらすとともに、不動産の流動性を低下させるおそれがあることから、取引の透明性を高めるための取り組みが講じられています。具体的には、指定流通機構(レインズ)において、売主自ら仲介を依頼した物件に購入の申し込みが来ているかなどの取引状況を確認できるようにするなど、ステータス管理機能の拡充が図られています。
また、消費者保護の観点からも、より透明性が確保される取引制度の構築や業界団体によるコンプライアンスの徹底を進めることは、既存住宅流通市場を成長させていく上で重要な課題です。



【4】おわりに


ここまで「令和6年度 経済財政白書」より住宅ストックの展望と課題をみてきました。
少子高齢化による人口減少が進む中にあっては、住宅の一層の過剰供給につながり得る新築信仰から脱却し、これまで我が国に蓄積されてきた既存住宅というストックを有効活用することにより、ゆとりある暮らしと豊かさを感じられる経済社会の実現につなげていくという視点が一層重要になると考えられます。
既存住宅市場の拡大が進む中、市況の変化が起こる可能性も考えられます。
今後の不動産売買の際は、金融市場や景気動向などにも通じた適切な不動産のアドバイザーに相談することが望ましいでしょう。


Writer

村木 信爾 氏

不動産鑑定士、不動産カウンセラー、FRICS、京都大学法学部卒、ワシントン大学MBA。

信託銀行にて、不動産鑑定、仲介等の業務に携わった後、現在、大和不動産鑑定㈱シニアアドバイザー、明治大学ビジネススクール兼任講師(元特任教授)、PROSIL代表。近著に『不動産プロフェッショナル・サービスの理論と実践』(清文社)2022.6刊、がある。

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