令和6年度経済財政白書から読み解く既存住宅市場における拡大と課題

目次
2024年8月、内閣府より「令和6年度 経済財政白書」が公表されました。 その中で日本経済は、コロナ禍の影響から脱した後、企業収益が過去最高を更新し、企業部門は堅調さを維持している一方で 家計部門は名目賃金の伸びが物価上昇に未だ追いついていないことから、個人消費は力強さを欠いた状態が続き、景気の回復力は弱い状態が続いているとあります。 このような経済状況の中、住宅ストックに関する課題にも触れています。 具体的には世帯数を超えて蓄積されてきた住宅ストックについて、今後は人口減少や単身世帯の増加の中で持家の新築需要が見込みがたいこと、 その一方で、中古住宅を志向する動きが広がりつつあることを示し、不動産取引市場の透明化を含め、この流れを後押しするための課題が何かという点です。今回はこのテーマを深堀していきます。
【1】日本における住宅需要の構造の変化
-新設住宅着工戸数の減少、既存住宅市場の増加
日本における住宅戸数(ストック)は、1960 年代後半に世帯数を上回り、両者のかい離が拡大していく中、新設住宅着工戸数は、1970年代前半の190万戸をピークに減少を続けています。直近の公表数値をみると2023年は約82万戸となっており、ピーク時の4割強まで減少しています。また近年における不動産価格の上昇の下、戸建て、マンションともに既存住宅の販売量が増加する傾向が続いています。(図1)
新設住宅着工が減少している影響で、既存住宅の取引の増加が進んでいると考えられますが、このような現象が起こる背景には、いったいどのような要因が考えられるのでしょうか?
【2】既存住宅の取引が増加している背景とは?
既存住宅の取引が増加している背景として、以下3点の要因が考えられます。
①各年齢層の持家率低下による、余剰となる持家住宅ストックの増大

②価格上昇による取得住宅の郊外化、既存住宅化
③住宅の長寿命化が進んでいる
【3】既存住宅流通市場拡大における課題
①既存住宅における価値が早期にゼロと評価される慣行の存在
②リフォーム実施拡大とその実施におけるユーザーの不安や不確実性の存在
③不動産仲介の円滑化、適正化、コンプライアンスの徹底といった透明性の確保
【4】おわりに
Writer
村木 信爾 氏
不動産鑑定士、不動産カウンセラー、FRICS、京都大学法学部卒、ワシントン大学MBA。
信託銀行にて、不動産鑑定、仲介等の業務に携わった後、現在、大和不動産鑑定㈱シニアアドバイザー、明治大学ビジネススクール兼任講師(元特任教授)、PROSIL代表。近著に『不動産プロフェッショナル・サービスの理論と実践』(清文社)2022.6刊、がある。