都心8区の中古住宅マーケットウォッチ Vol.7
目次
前回の報告に引き続き、直近1年間の都心8区中古マンションの四半期平均販売価格などを見ていきます。
都心8区の㎡あたり販売単価などの推移は?(図1)
都心8区㎡単価(図1)を見ると千代田区(180.20万円/㎡)と港区(176.72万円/㎡)2区が高く、2023年第4四半期と同様、175万円を超える結果となりました。
対前年の同時期から1年間の変動率を示す「対前年四半期㎡単価変動率(表1)」でみても、2024年第1四半期では、都心8区で全てプラスです。特に中央区が18.77%と一番高く、次に新宿区の10.93%の順です。
この2区は10%を超えていますが、逆に渋谷区は2.69%、目黒区は2,90%と3%を下回っており、区によって3倍以上の差が開いています。ただ変動率の1年間平均でみてみると中央区は9.66%で一番高いですが、2024年第1四半期の18.77%の約半分となっており、直近での変動率の動きが高いことが伺えます。都心8区全体での変動率の1年間平均の数値は一番低くても目黒区の2.06%ですので、引き続き都心8区は上昇が続いているといえます。
一方で都心8区の平均販売価格(表2)をみると直近2024年第1四半期の数値は、高いほうから港区9,783万円、中央区9,595万円、千代田区9,119万円の順となっており、この3区は9,000万円を超える結果となりました。さらに平均専有面積(表2)をみると、中央区が58.74㎡と一番広く、逆に千代田区が50.61㎡と一番狭い結果でした。前回(マーケットウォッチVol.6)では、一番狭いのは千代田区でしたが、一番広いのは港区でしたので、今回は広さでは中央区が逆転した結果となっております。また、築年(年)平均は、古い順では、目黒区32.56年、渋谷区31.36年と30年を超えているのに対し、新しい順では、中央区17.11年、港区26.50年の順となっています。特に中央区は築年(年)平均が20年以下となっており、古い順で一番の目黒区とは約15年の開きがあります。この差は前回(マーケットウォッチVol.6)の考察でも触れたように、都心の再開発などで築年数が浅い物件が多いと推測され、販売される中古マンションにもその影響が出ているためと考えられます。
今回はその中でも特に中央区で顕著に数値として表れたといえます。
都心3区(中央区、港区、千代田区)の成約件数-平均成約単価の推移は?(図2)
都心3区においては前回同様、今回も半年前の成約件数と成約単価の間に相関関係が見られ、成約件数が増えていくと、半年後には、成約単価も影響を受けて大きくなるという見方ができます。
直近の2024年第1四半期は、対前期比で成約件数、成約単価とも上昇しました。
都心3区(中央区、港区、千代田区)の物件ストック数と成約比率は?(図3)
都心3区のストック数と成約比率との関係は時間差(ラグ)なしで、負の相関関係がありますが、直近の2024年第1期は、対前期比で、ストック件数、成約比率ともにやや下落しています
TOPICS
(1)東京メトロ有楽町線・南北線の延伸や鉄道新線エリアのマンション動向
2024年5月17日、東京メトロ有楽町線・南北線の延伸が東京都の都市計画審議会にて承認されました。
1年以内に着工し、2030年半ばの開業を目指しています。有楽町線は、豊洲~住吉間でマンション開発が進む臨海部と東京スカイツリーなどの集まる都内東部をつなぎ、南北線は、白金高輪~品川間で羽田空港との結節点になる品川駅と六本木などの都心部に移動しやすくなります。加えて築地市場跡地の再開発などの相乗効果で、国際競争力の底上げが見込まれています。また東京都は、東京メトロの延伸だけでなく、東京駅を起点に銀座や豊洲市場などを経由し、有明・東京ビックサイトまでを結ぶ新線として「臨海地下鉄」構想を進めています。現在、事業検討計画会が設置され、2040年までの実現を目指す取り組みとして検討を進めています。この路線が着工されれば、勝どき・月島エリアなどの利便性が上がると考えられます。
この鉄道新線エリアにおける、特に大規模新築マンションにおいても売れ行きが気になりますので、周辺物件を取り扱う不動産会社にヒアリングしたところ、新築分譲済のパークタワー勝どきと晴海フラッグにおいて引き渡し後の即時転売住戸が増加しており、周辺物件の価格に影響しているという話がありました。今後も周辺地域での取引が活発化すると推測されます。
(2)首都圏全体の中古マンションの動向
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)より公表された2024年4月の不動産流通市場動向によると、首都圏全体の中古マンション成約件数は11カ月連続で上昇(前年比+10.1%)し、成約単価も48カ月連続で上昇(前年比+11.3%)、在庫件数も27カ月連続で増加(前年比+0.9%)しました。また4月の東京都区部における中古マンションの成約単価は113.08万円/㎡で48カ月連続で増加(前年比で+8.3%)しました。
成約単価が在庫単価を上回るということからも、高額帯の売れ行きが良く、低価格帯は動きが悪くなっていることがわかります。
都心エリアの高額物件を富裕層やインバウンド層が購入していることが主要因と考えられており、近郊・郊外の物件価格が上昇しているわけではないといえます。
(3)成約まで長期間かかる物件と短期間で成約となる物件の二極化、富裕層顧客の物件購入判断ポイント
(1)立地
駅近かつ住環境が良いことに加え、再開発計画エリアが近く、街の将来性に期待が持てる立地。
(2)眺望
都心部で言うと、東京タワービューでの価値が高く、新宿御苑の眺望も人気。
(3)面積
富裕層、外国籍といった購入検討者からは、広ければ広いほど好まれる傾向があり、130㎡超の物件となると市場の流通量が少なくより好まれる。
(4)ブランド
大手デベロッパーが販売する物件はブランド化されており、中古市場でも好まれ、高値で取引
まとめ
今回も都心における中古住宅のマーケットは、需要、供給共に好調で、引き続き上昇局面であり、価格帯も含め二極化している物件の見極めが、一層重要になっていることを再確認しました。
2024年3月からの日銀のマイナス金利政策解除により、住宅ローン利用層において影響があると見込まれますが、都心マーケットを牽引していている富裕層、特に外国籍の購入検討者の勢いは継続していると考えられます。
今後も信頼のできる不動産の専門家にアドバイスを受けつつ、しっかり不動産マーケットを見ていきましょう。
Writer
村木 信爾 氏
不動産鑑定士、不動産カウンセラー、FRICS、京都大学法学部卒、ワシントン大学MBA。
信託銀行にて、不動産鑑定、仲介等の業務に携わった後、現在、大和不動産鑑定㈱シニアアドバイザー、明治大学ビジネススクール兼任講師(元特任教授)、PROSIL代表。近著に『不動産プロフェッショナル・サービスの理論と実践』(清文社)2022.6刊、がある。