マンション市況の転換点 今、都心マンションオーナーが取るべき「次の一手」とは
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2026年6月23日
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所理事長 不動産エコノミスト
吉崎 誠二
都心のマンションを保有する方の中には、この先の市況動向を見据えながら「このまま所有し続けるべきか」「売却を検討すべきか」と迷われる方が増えているようです。
実際、首都圏中古マンションの5月の成約㎡単価は、前年同月比で2020年4月以来73カ月ぶりに下落に転じました。これまでの長く続いた右肩上がりの市場から一歩進み、「物件ごとの差」がより意識される局面に入りつつあると言えます。こうした中で重要なのは、「上がるか下がるか」という予測だけを意識することではなく、ご自身の立ち位置を冷静に分析したうえで整理し、所有マンションに対する今後の方針を明確にすることです。今は、都心マンションオーナーにとって、「売却」「賃貸」「所有継続」のいずれもが選択肢として成立する一方で、“何も決めない状態”は将来の選択肢を狭めてしまう局面とも言えるでしょう。
―市況整理―
【1】“上がる市場”から“選ばれる市場”へ 物件ごとの差が広がり始めた
これまでの都心マンション市場は、需要の強さを背景に価格上昇が続いてきました。しかし足元では、その流れに変化の兆しが見え始めています。ただし重要なのは、「市場全体が崩れているわけではない」という点です。実際には、立地や築年数、規模、ブランドなどによって動きが分かれており、売り出し物件が増えているエリアやマンションがある一方で、売り出し物件が少なく、希少価値が高まっているエリアやマンションもあります。このような動向の中で、“価格が維持される物件”と“調整が見られる物件”の二極化が進みつつあります。
つまり、今後の判断は「市況が上がるか下がるか」ではなく、“ご所有物件の状況を見極めて、どう動くべきか”が問われる局面に入っています。
【2】まず整理したいのは「所有目的」と「現在の状況」
所有マンションの今後の方針を検討するうえで、最初に確認すべきは「なぜその物件を所有しているのか」と「現在どのような状況にあるのか」という点です。大きく分けると、所有目的は以下の2つに整理できます。
・自身が住む「実需(居住用)」
・賃料収入や資産形成を目的とした「投資」
さらに、それぞれの中でも状況に応じて選択肢が分かれます。例えば、「住み替えを考えているのか」「現状に満足しているのか」「収益性を維持したいのか」「利益確定したいのか」などによって、取るべき選択は大きく変わります。本稿では、こうした整理を踏まえ、代表的なケースごとに考え方と対応の方向性を整理します。
【3】あなたはどのタイプか 立ち位置別に見る判断の方向性
判断の入口として有効なのは、自分の所有目的と現在の状況がどのタイプに近いのかを整理することです。まずは下表を参考に、ご自身の立ち位置に近いケースを確認してみてください。
もちろん、実際には特定のタイプに限定できないケースもあるかと思います。ただ、まずは最も近いタイプを起点に考えることで、何を優先して整理すべきかが見えやすくなります。以下では、それぞれのタイプごとに考え方のポイントを見ていきます。
―実需目的の場合―
売却し次の住み替え先も購入したい方
【4】買い替え成功の鍵は “高く売る”だけでなく“次をどう買うか”
売却益を活用して買い替えを検討している場合、現状は、買い替えを進めやすい環境が続いています。購入時より価格が上昇しているケースでは、売却によって得られる利益を次の購入資金に充てられる可能性もあります。
ただし、この局面で重要なのは、単に高く売ることだけではありません。売却価格から住宅ローン残債や諸費用を差し引いた後に、実際にどの程度の手元資金が残るのかを把握し、そのうえで住み替え先に充てられる予算を整理することが欠かせません。さらに、売却と購入の時期が無理なくつながるようスケジュールを調整しておくことで、資金面・生活面の両方で無理のない買い替えにつながります。
売却はしたいが次の購入はまだ迷っている方
【5】売却で利益を確保し 次の購入は“急がない”という考え方
「一度売却して利益は確定したいが、次の購入は市況を見ながら判断したい」という方も少なくありません。このような場合は、“売却後に賃貸へ住み替える”という柔軟な選択肢も有効です。売却によって資金を確保しつつ、次の購入タイミングを冷静に見極めることができます。その際重要なのは、売却後の手元資金と、賃貸に住み替える場合の家賃や初期費用などのコストも踏まえたうえで、次に購入する時期をどう考えるか整理しておくことです。
ご承知のように、東京23区内の住宅賃料は上昇が続いており、高い水準で推移しています。「なかなか見合う物件がない」ということもありえますので、賃貸への住み替えの場合には、売却前に賃貸物件の選定を進めておくのもひとつです。いずれにしても、急いで結論を出すのではなく、選択肢を確保しながら判断できる状態をつくることが大切です。
現在の住まいに満足している方
【6】無理に動かなくていい ただし“いつ動くか”は決めておく
今の住環境に不満がなく、売却の優先度が高くない場合は、無理に動く必要はありません。ただし、この場合でも重要なのは、「将来どのタイミングで売却を検討するかの目安を持つこと」です。住宅ローンの残債の状況はもちろん、家族のライフスタイル(学校や塾、習い事など)もイメージしておきたいものです。
あわせて、ご所有物件が立地や築年数の面でどの程度の希少性を持っているのかを確認しておくと、今後の資産価値や売り時を考えるうえでの判断材料になります。あらかじめ基準を持っておくことで、市場環境が変わった際にも柔軟に対応できるようになります。
―投資目的の場合―
安定収入を重視する方
【7】持ち続けるうえで 賃料・空室リスク・修繕計画をあらためて点検する
賃料収入が安定している場合、現時点で無理に売却する必要はありません。その一方で、以下の点は改めて見直しておくことが重要です。
・今後も賃料が市場水準を維持できるか
・将来的な空室リスクに対応できるか
・修繕費や管理コストの増加を見据えた収支計画になっているか
新規賃料(入替時賃料)は上昇傾向にあり、賃料改定時には従来より高めの賃料を提示する傾向にありますが、その一方で管理費や修繕費用も上昇していますので、動向の見極めが必要でしょう。つまり、今後の市場環境を踏まえ、収益性の維持・改善を図る視点が求められます。
利益確定を検討している方
【8】利益確定はゴールではない 売却後まで見据えて出口戦略を
購入時から大きく価格が上昇している場合、売却による利益確定も有効な選択肢です。特に市況の先行きに不透明感が出始めた局面では、「いま売る」という判断に合理性が出てくる場面もあります。この際は、単に利益確定自体を目的にするのではなく、その後の資産運用まで含めて、以下の観点から、出口戦略を整理しておくことが重要です。
・売却益の把握
・次の投資先
・資産全体の配分バランス
―実需・投資目的共通―
まだ決めきれず様子を見たい方
【9】様子見は悪くない ただし“基準のない先送り”ではなく“動く条件”を決める
ここまで、いくつかのパターンを例示してきましたが、実際には、「まだ判断できない」「少し様子を見たい」という方が最も多いのではないでしょうか。市場の変化は急激に表れるとは限らず、緩やかに進むことも多いため、「もう少し様子を見よう」と思っている間に、気づかないうちに市場環境が変化している可能性もあります。特に、金利動向、買い手の需要、供給の増減などは、売却条件に直接影響する要素です。
重要なのは、「何も決めずに様子を見る」のではなく、「条件を決めたうえで様子見をする」ことです。そのためには、査定額や住宅ローン残債の定期的な確認をし、家族構成や働き方、今後の住まい方といったライフプランを整理しておくことで売却・保有のどちらを選ぶべきかが見えやすくなります。例えば、「査定額が〇円を下回ったら売却する」「子供が巣立ったら一定期間内に決断する」といった具体的な条件を設けておくことで、判断の遅れを防ぐことができます。
―まとめ―
【10】市場に振り回されないために “立ち位置”を明確にする
これからのマンション市場においては、「売るべきかどうか」という問いそのものよりも、「自分がどの立場にあるのか」を明確にすることが重要です。そのために、まずは次の3点を整理してみてください。
・自身の所有目的と現在の状況を把握する
・判断の条件(いつ・どうなったら動くか)を決める
・必要に応じて客観的な情報を取得する
方向性が定まることで、今後の選択肢はより具体的になります。そのうえで、現在の資産価値や選択肢を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。査定やシミュレーションによって、売却した場合の手元資金といった現実的な判断材料を整理することができます。状況を整理することで、迷いは減り、ご自身に合った次の一手が見えてくるでしょう。
PROFILE
吉崎 誠二 よしざき せいじ
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所理事長 不動産エコノミスト
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。株式会社船井総合研究所上席コンサルタントとして活躍後、株式会社ディー・サイン取締役、旧ディー・サイン不動産研究所所長を経て、一般社団法人住宅・不動産総合研究所理事長に就任(現職)。不動産・住宅分野を専門とし、データ分析や市況予測を得意とする。セミナー、講演、TV・ラジオ出演、著書多数。代表著作に「間違いだらけの住まい選び」、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」などがある。


