金利上昇に伴う、投資視点で見た不動産投資の現状の見通しと、他の投資商品との比較
目次
2026年9月7日
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長 不動産エコノミスト
吉崎 誠二
金利上昇が続いています。政策金利は2026年6月に引き上げられ執筆時点(9月7日)では1.0%ですが、9月17~18日に行われる日銀金融政策決定会合では1.25%に引き上げられるという予想が多いようです。それに伴い9月からの大手銀行の変動金利は、軒並み引き上げられています(1.0%~1.5%程度)。また、年度内にはさらにもう一度の利上げが予想されており、政策金利のターミナルレートは1.5%とみる市場関係者が多いようです。
また、長期金利も上昇が続いており、目安となる10年物国債金利は9月月初には3%台に乗せる場面もありました。長期金利の動向は、後述しますが、不動産を投資視点で見る際には、長期金利はベース金利的なイメージで捉えることが多いため、きわめて重要な指標となります。
今回の原稿では、金利が上昇基調にある中で、分譲マンションを「投資商品」と見て、他の投資商品と比べてどのようなポジションにあり、それぞれの現状の動向はどうか?そして今後どうなるのか?を考察します。
【1】首都圏中古マンションの市況感
まず、ざっくりとした首都圏のマンション価格の状況を見ておきましょう。首都圏の中古マンション価格は、平均成約㎡単価を見れば、前年同月比ではここ数か月はややマイナスとなっていますが、前月比を見ればほぼ横ばい(やや上昇)となっており、全体感では、価格は概ね横ばいという状況です。しかし、価格帯や地域で状況は異なり、レインズデータ※1などを見れば、首都圏で超高額とも言える都心3区の中古マンション価格はやや下落、一方で中価格帯の周辺部の中古マンション価格は上昇傾向(もしくは横ばい)にあるようです。
首都圏を含め大都市圏の分譲マンションの需要は、基本的に実需(自己居住用)が中心ですが、一定割合は投資としての購入(一定期間保有や短期売買・転売)もあり、こうした需要は、代替資産の価格動向や利回り動向により、投資行動に変化が見られます。
分譲マンションを投資対象として見る場合における2パターンのうち、一定期間保有するタイプは、インカムゲイン狙いですので金利と利回りに影響を受けます。また短期売買(リノベーション後の転売含む)の場合は、基本的にはキャピタルゲイン狙いですから、マンション価格の上昇可能性に影響を受けます。前述のとおり、2026年に入り、中古マンション価格の上昇幅は小さくなっており(あるいは一部で下落しており)、都心部では成約件数が前年を下回る月が続くなど、取引の鈍化や一時的な価格調整の動きも見られます。このため、短期的なキャピタルゲインを狙う投資については、以前より慎重な判断が必要な局面になっていると言えるでしょう。
※1:不動産流通標準情報システム(REINS)に登録された情報のうち、公益財団法人 東日本不動産流通機構が管轄するエリアの売出や成約のデータ
【2】代替資産と近年大幅上昇した資産価格
ここでいう、不動産に代わる代替資産とは現金を除けば、債券・株式・金などが代表的なものとなります。債券市場は、不動産の投資期間を踏まえて10年物国債を見れば、冒頭で述べたように、約30年ぶりに金利が3%を超えました。日経平均株価は2026年8月の1カ月平均を見れば66,000円程度で推移、国内の金価格は直近では24,000円台で推移しています。
長期金利がほぼ0%だった2022年と比較すると、10年物国債の年初の金利はほぼ0%。また、2022年の日経平均株価は2万円台後半で推移、金価格は7,000円台で推移していましたので、どれも相当な値上がり(債券は利回り上昇)となっています。この間マンション価格は、首都圏の中古マンションの成約㎡単価を見ると、2022年の年間平均は約67万円、最新の2026年7月単月では84万円となっており、こちらもかなり上昇しています。
いずれも、資産インフレが顕著となっていますが、この中で債券市場は、基本的には確定した利益をもたらす確定利回り商品である点で、他の資産と異なります。もちろん、金には利息や配当(不動産投資で言う賃料)がありません。
長期国債金利の上昇(=債券価格の下落)の背景には、①米国をはじめとした各国の長期金利の上昇②政策金利など日銀の金融政策が利上げに舵を切っていること③現政権の財政支出の拡大などがあると考えられますが、①~③いずれも、これからしばらく続きそうな状況です。そのため、長期国債金利については、今後も上昇圧力が続くとの見方があります。
【3】株式・債券・金・不動産 4つの資産の特徴と金利上昇局面での考え方
多くの方は、資産を保有する際には資産を分散させて保有されているものと思います。ここでは、一般的な資産分散のパターン(=アセットアロケーション)で主要な(現金を除く)、株式・債券・金・不動産についてまとめておきます。
マイナス金利が解除されて2年半、日本は「金利のある世界」に完全に戻ったと言えるでしょう。そして資産ごとの性格の違いが、これほどはっきりと表れる局面も久しぶり(本来は当たり前ですが)です。ここでは株式・債券・金・不動産の4つについて、特徴を整理したうえで、過去3年の結果と金利上昇の影響を考えてみます。
4つの資産の基本的な性格
4つを資産運用の側面で見た場合の大きな違いは「収益の源泉」にあります。株式と不動産は、値上がり益(キャピタルゲイン)と事業や賃貸から生まれるキャッシュフローを取り込む(インカムゲイン)資産で、債券は契約で決まった利息を受け取る資産、そして金は利息も配当も生まない資産です。一方で、金はインフレや有事、通貨価値への不安が高まる局面では、資産防衛の手段として買われやすい特徴があります。この差が、金利が動いたときの影響の違いにそのまま表れます。
【4】過去3年で起きたこと
株式は、日経平均株価が2023年9月末の31,000円台から、2026年9月上旬には65,000円前後となり、およそ2倍になりました。しかし2026年に入ってからは3月末に50,558円まで下げ、6月下旬には72,000円台まで上昇するなど、値動きの幅はきわめて大きくなっています。
金も大きく上昇しました。国内小売価格は2026年3月3日に1グラム30,000円近い史上最高値をつけ、その後は調整して9月初旬は24,000円台です。上昇率では最も高い部類ですが、高値からの下落幅も相応に大きいことがわかります。
債券価格(価格下落=利回り上昇)は逆風の3年でした。日銀は2024年3月にマイナス金利を解除し、2025年12月に0.75%、2026年6月には約31年ぶりとなる1.0%へ政策金利を引き上げています。10年国債利回りは3%前後まで上昇し、すでに保有していた債券の市場価格は下落し、満期前に売却する場合は額面を下回る可能性があります。一方で、これから買う人にとっては利回りが大きく改善したことになります。
不動産は実物とREIT(不動産投資信託)で明暗が分かれました。2026年の公示地価は全用途平均で2.8%上昇し5年連続のプラス(住宅地2.1%、商業地4.3%)、中古マンション価格指数も高水準を保っています。これに対して東証REIT指数は、2026年9月に入り1,760円台と、1年前比では6%超下落するなど軟調に推移しています。金利上昇への懸念などが影響している可能性があります。
【5】金利上昇局面で想定される影響
債券は、既発債の市場価格が下がる一方、新規購入や変動金利型では受取利息が増えます。金は利息を生まないため、実質金利の上昇は保有コスト(機会費用)の増加として働き、逆風になります。ただし地政学リスクや通貨価値の下落に対する備えという金本来の役割は変わりません。株式は、金利上昇に連動する割引率の上昇がPER(株価収益率)の低下圧力として働きます。もっとも、値上げを実現できる企業や、利ざやが改善する金融関連株には追い風でもあり、業種による差が広がりやすい局面です。
不動産で注意したいのは、借入コストの上昇と期待利回りの上昇が同時に起こる点です。フラット35は3%台半ばが多く、変動金利も引き上げが相次いでいます。ただし賃料が上がれば純収益(NOI)の増加が価格の下押しを打ち消します。今後は「賃料が上がる物件かどうか」の選別がこれまで以上に効いてくるはずです。資産は成長性の高低で優劣が決まるものではなく、収益の源泉が違う以上、金利上昇の効き方も異なります。だからこそ組み合わせる意味があります。金利のある世界では、値上がり益への期待だけでなく、その資産が生むキャッシュフローが金利上昇に耐えられるかどうかを見ることが、判断の軸になると考えます。(数値は2026年9月上旬時点。)
【6】長期金利と不動産投資における期待利回り
不動産投資において投資家が期待する利回りの指標にキャップレートがあります。このキャップレートのベースとなるのが、リスクフリーレートとしての10年物国債の利回りとなります(リスクフリーと言っても、リスクが完全にゼロであることを意味するものではありませんが)。 長期金利は短期間で大幅な上昇となっています。下のグラフをみれば、上昇の状況が分かります。
10年物国債金利の推移
(出典:財務省「国債金利情報」(2026年8月末時点))
収益不動産(賃貸用住宅を含む)の価格(=経済的価値)は、収益還元法で求めるのが一般的です。比較的簡易的な直接還元法は、一期間の純収益(総収益-経費など)を還元利回りで割り戻して計算します(分子を純収益、分母を還元利回りとする)。
この還元利回りはいくつかの算出方法がありますが、理論的にはベース金利(リスクフリーレート)を長期国債金利として、リスクプレミアム(不動産保有のリスク)を加えます。つまりリスクプレミアムが一定の場合、長期国債金利が上昇すると、還元利回りも上昇することになります。そして純収益を一定とすれば、価格下落へとつながります。現状、長期国債金利は上昇していますが、首都圏の収益不動産(例えば、1棟ものの賃貸住宅)の価格は下落していません(というより上昇しています)。それは、総収益(≒賃料収入)が上昇しているからであり、さらに賃料上昇の期待があるからだと考えられます。もちろん経費なども上昇していますが、それ以上の賃料上昇、あるいは上昇期待があるからでしょう。
首都圏だけでなく、札幌市・仙台市・大阪市・福岡市などの全国主要都市でも住宅賃料は上昇しています。特に、分譲マンションの賃貸や高級賃貸住宅におけるファミリータイプ物件で上昇が顕著です。この住宅賃料上昇の背景については、以前の本稿※2でお伝えしましたので、詳しくは割愛しますが、物価上昇が続く中で、それに遅れる形(賃料の遅効性)で上昇しており、とくにファミリータイプの家賃上昇の背景には、分譲マンション価格の高騰によって賃貸物件に滞留する世帯が増加し、需給がひっ迫していることが挙げられます。
※2:高市新政権で不動産市況は変わるのか? https://www.daikyo-anabuki.co.jp/sumai/detail/1289/
【7】最後に
このような金利上昇・利回り低下の局面にあっても、不動産投資にはメリットがあります。たとえば、先に比較した4つの投資商品のうち、一般の個人でもローンを活用して大きな金額の投資ができる点は、不動産投資の特徴です。また、相続時には、現金などと比較して、現行税制度では財産評価額を抑えることができ(金・株式は時価)、相続税負担の軽減につながる場合があります。
分譲マンションを投資目線でみるならば、しばらくの間長期国債金利は上昇基調が続き、今後も還元利回りが上昇する可能性が高まると思われます。よって、今後、賃貸用分譲マンションの保有を続けるか、新たに購入するか、あるいは手放すかを判断するうえでは、「マンション価格が上がるか」だけでなく、「賃料の上昇によって、還元利回りや借入コストの上昇を吸収できるか」が、これまで以上に重要になります。都心マンションであっても、立地や希少性、賃貸需要の強さによって賃料の上昇余地は異なるため、物件ごとに保有継続の妥当性を見極め、賃料上昇が見込みにくい場合には、売却を含めたポートフォリオの見直しを検討すべきタイミングと言えるでしょう。
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PROFILE
吉崎 誠二 よしざき せいじ
一般社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長 不動産エコノミスト
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学博士前期課程修了。株式会社船井総合研究所上席コンサルタントとして活躍後、株式会社ディー・サイン取締役、旧ディー・サイン不動産研究所所長を経て、一般社団法人住宅・不動産総合研究所理事長に就任(現職)。不動産・住宅分野を専門とし、データ分析や市況予測を得意とする。セミナー、講演、TV・ラジオ出演、著書多数。代表著作に『間違いだらけの住まい選び』、『大激変 2020年の住宅・不動産市場』などがある。


