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令和5年土地白書から読み解く不動産情報におけるデジタル化・オープンデータ化の動き

公開日:2023-09-15 00:00:00.0

目次

今回は、今年6月に公表されました令和5年土地白書の特集より、「不動産情報のデジタル化・オープンデータ化」について考えてみます。



【1】不動産情報のデジタル化、オープンデータ化の状況


(1)オープンデータ化の推進

国は、インフラ整備・防災対策、土地の適正な管理、不動産流通等の各分野において、デジタル技術を活用し、取り組みの効率化・高度化を進め、地方の社会課題の解決や魅力の向上につなげていくことを目的に、官民が保有するデータの活用促進、すなわち「オープンデータ」化を推進しています。


また、関係省庁は、令和7年度に情報の一元管理を開始すべく、マスターデータの整備に取り組んでいます。


土地に関しては、住所、所在地等のアドレスや不動産登記情報等を整備対象とし、例えば、登記所備付地図データが加工可能な形で公開されることにより、都市計画・まちづくり、災害対応等のさまざまな分野で利用され、新たな経済効果や社会生活への好影響をもたらすことが期待されています。


もちろん、行政機関等が保有する地理空間情報は、幅広い行政分野にわたる多様な情報が含まれることから、個人の権利利益を保護する必要があります。元データが個人情報を含み、秘匿する必要がある場合、秘匿データに基づく統計データに、プライバシーを保護するノイズを注入することによって、統計的有用性を維持したまま、統計データにおける数学的に証明可能なプライバシーの保証をしています。



(2)不動産テック、オンライン化

不動産業界ではITやAIおよびビッグデータを用いて不動産の新たなサービスを提供する不動産テックが日本国内でも普及しており、物件情報の発信、物件の内見、契約手続および不動産投資等、不動産の流通ステージに応じたさまざまなサービスが提供されてきています。例えば、不動産取引に当たって判断材料となる周辺の公共施設や商業施設・ハザードマップ等の情報提供をしている会社、所有する不動産に応じて適した活用法を診断するサービスを提供する会社、さらに個人等が少額から不動産投資を行える不動産クラウドファンディングの導入といったサービスが挙げられます。


また、令和4年5月の宅地建物取引業法等、各種法令の改正・施行により、下記図表1のようなITを活用して行うオンライン重要事項説明や書面の電子化といった不動産取引のオンライン化が可能になりました。さらに国土交通省は、不動産取引おいて必要な関連情報を誰もが容易に取得できるよう、不動産取引価格情報や防災情報、都市計画情報、周辺施設情報等、不動産取引に際し必要となる情報を、地図上に重ね合わせて分かりやすく表示する「土地・不動産情報ライブラリ」を構築する等、オンラインによる情報開示が進んできています。



【図表1】不動産取引のオンライン化に向けた取り組みの概要および経緯




(3)農地、林地情報の管理システム



農地の面積や所在地等の情報は、農業委員会事務局や地域農業再生協議会等の機関ごとに管理されており、それらの情報が整合していないケースも存在します。


国は、これらの情報を一元的に管理する「農林水産省地理情報共通管理システム」(eMAFF地図)を開発しました。


これは農地台帳、水田台帳等の現場の農地情報を、農地の区画情報を基に作成したデジタル地図に紐付けるもので、令和4年度に一部機能の運用を開始しています。


森林に関しては、生育する樹種や林齢および法規制等が取りまとめられた森林簿や森林の区域や林道等を示した森林計画図にまとめられていますが、個人や法人が所有する民有林は都道府県、国が管理する国有林は農林水産省林野庁、森林所有者に関する情報等が整備された林野台帳は市町村が各々で管理しています。国はこれらの情報を一元的に管理するため、クラウド技術を活用した「森林クラウドシステム」の仕様やデータ形式の標準化を行い、都道府県等によるシステムの導入を促進しています。



【2】土地の適正な利用管理におけるデジタル技術の活用


(1)2次元モデルから3次元モデルへ



不動産情報を活用するための代表的なデジタル技術としては、GIS(地理情報システム)があります。これは、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、電子地図上に可視化することにより、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術です。GISはこれまで平面地図へ反映されることが多くみられましたが、最近では、3次元点群データと呼ばれる3次元データの整備が進んできています。これは、航空機や車両に搭載したレーザスキャナを用いて地形や建物等の位置や高さ等の情報を大量に集めることで、その形状を3次元的に表現するものです。3次元点群データを活用して作成される3次元地図は、都市開発や浸水想定、自動車の自動運転、ドローンの運行管理等の多様な分野での活用が期待されています。



(2)Project PLATEAU

Project PLATEAU(以下「PLATEAU(プラトー)」)は、2020年にスタートした国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化のプロジェクトです。3D都市モデルは、都市空間に存在する建物、道路等に名称や用途、建築年等の属性情報を付与することにより、都市空間そのものを再現する3D都市空間情報プラットフォームで、これにより都市計画の立案の高度化や、都市活動のシミュレーション、分析等を行うことができます。PLATEAUでは、これまで全国約130都市(面積約2万k㎡)の3D都市モデルのオープンデータ化を実現するとともに、データ仕様やプロジェクトの成果をガイドブックシリーズ等として公開し、地方公共団体における3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を支援しています。


また、PLATEAUの3D都市モデルは防災分野との親和性も高く、浸水想定区域図等を重ね合わせることで、災害リスク情報を三次元で分かりやすく可視化することに加え、リスクコミュニケーションや行政のオペレーションに資するアプリケーションの開発など、防災に関するさまざまな取り組みも行われています。防災以外の分野でも、例えば景観計画や開発計画をVR(Virtual Reality(仮想現実)の略)空間で容易に再現可能なツールの開発や、太陽光発電のポテンシャルの精緻な推計等、カーボンニュートラルの推進に向けた取り組み等が進められています。


国土交通省では、今後、PLATEAUと建築物の3次元データと属性情報を併せ持つ「建築BIM(注1)」や、不動産を一意に特定する共通コードである「不動産ID(注2)」の一体的な運用により、建物内部から都市スケ-ルまで高精細なデジタルツインを構築し、官民のデータ連携による都市開発・維持管理の効率化や地域政策の高度化、新産業の創出を図ることを目指しています。


下記サイトでは、2022年4月~2023年1月に東京都港区品川駅北周辺地区で実施された防災エリアマネジメントDXの実証実験や、2023年1月に東京都板橋区の舟渡・新河岸・高島平地域で実施された、3D都市モデル上で浸水深の推移を時系列で表現し、浸水範囲に応じた適切な避難ルートを検索・可視化するシステムの実証実験が紹介されています。


国土交通省WEBサイト(About PLATEAUとは PLATEAU[プラトー](mlit.go.jp))


(注1)Building Information Modeling(ビルディングインフォメーションモデリング)の略。設計・施工・維持管理といった建築生産プロセスを横断して建築物のデータを連携・蓄積・活用する建築分野のデジタル・インフラとしての役割が期待されています。


(注2)不動産登記簿の不動産番号(13桁)と特定コード(4桁)で構成される17桁の番号。不動産IDを使用することにより、住所の表記ゆれや同一住所・地番に複数の建物がある場合も含めて、一義的に不動産を特定することが可能になります。



(3)流域治水におけるDX

国土交通省では、気候変動による水災害の頻発化や激甚化に対応するために、あらゆる関係者が協働して本川・支川、上流・下流など流域全体を俯瞰し「流域治水」を行う、DXによる防災・減災対策の高度化・効率化を推進しています。例えば、本川・支川が一体となった洪水予測やAlを用いたダム運用に向けた技術開発・実装を進めているほか、小型で安価なセンサーによる浸水範囲のリアルタイム把握に向けた実証に取り組んでいます。さらに、デジタル技術を活用したイノベーション推進のため、過去の水位や流量等のデータのオープンな提供に取り組んでいます。これらの動きを推進するための実証実験基盤の整備が進められています(図表2参照)。



【図表2】実証実験基盤(デジタルテストベッド)の整備イメージ



(4)エリアマネジメントDX

国土交通省は、住民ニーズを的確に捉えたきめ細かい都市サービスを継続的に提供していくため、デジタル技術の導入により、身近な地域におけるまちづくり活動(エリアマネジメント)の高度化を図る「エリアマネジメントDX」を推進しています。


例えば、東京都港区の竹芝地区では、令和元年7月から、都市開発やエリアマネジメントに強みを持つ東急不動産株式会社とデジタル技術に強みを持つソフトバンク株式会社が共創で最先端のテクノロジーを街全体で活用するスマートシティのモデルケースの構築に取り組んでいます(図3および注3参照)。


災害時における一時滞在施設のグラウド上でのステータス(開設状況)管理機能や、スマートフォンを活用し、まちの被害情報投稿機能をはじめとするサービス等を用いて、混雑状況や被災状況を把握しやすくすることにより、地域の防災力の強化を目指す他、データ活用による回遊性の向上等の取り組みを推進しています。



【図表3】3D都市モデルを活用して作成された竹芝エリアのデジタルツイン


出典:国土交通省 令和5年版「土地白書」 4 3ページより


(注3)デジタルツインとは、現実世界の環境から収集したデータを使い、仮想空間上に同じ環境をあたかも双子のように再現するテクノロジーのことで、製造業や都市開発で近年注目を集めています。



まとめ


以上に述べたような、デジタル技術の進展によって、不動産の活用の可能性やリスク情報がより明確になり、不動産の価値評価にも大きな影響を与えることになるでしょう。不動産売買の際には今まで以上に、このようなデジタル情報も含めて、地元に関する情報に精通した不動産仲介サービスが求められています。



Writer

村木 信爾 氏

不動産鑑定士、不動産カウンセラー、FRICS、京都大学法学部卒、ワシントン大学MBA。

信託銀行にて、不動産鑑定、仲介等の業務に携わった後、現在、大和不動産鑑定㈱シニアアドバイザー、明治大学ビジネススクール兼任講師(元特任教授)、PROSIL代表。近著に『不動産プロフェッショナル・サービスの理論と実践』(清文社)2022.6刊、がある。

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